1ヶ月のマレーシア留学での学会発表~化学工学会八戸大会2025参加レポート

電子・光機能材料研究室の加来です。
今回は、ちょっと面白い話をしようと思います。皆さん、1ヶ月の短期留学で国際的な研究データを取得し、それを学会で発表するというキャリアが手に入るとしたら、どう思いますか?しかも、電気電子系の学生が化学工学の学会で堂々とプレゼンする、という異色の経験込みで。「そんなおいしい話があるわけない」と思うかもしれませんが、実際に私がやってきたので、その一部始終をお伝えします。
短期留学の詳細はこちら:
https://tduoptmaterlab.sakura.ne.jp/wp/archives/3672
なぜマレーシア×化学工学なのか
まず前提を整理しましょう。私は電子システム工学科の学生です。専門は電気電子。それなのに今回、化学工学会で発表することになりました。
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化学工学会八戸大会2025
https://www4.scej.org/meeting/tkh2025/
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理由はシンプルです。研究に分野の壁なんてないんですよ。特に生成AIなどのツールも発展した今、理系⇔文系の敷居も低くなりつつあります。今年8月、マレーシア工科大学(UTM)での短期留学プログラムに参加し、そこで「硫化水素–テトラヒドロピランの沸点測定」という実験に取り組みました。化学プラントの設計に必要な基礎データを取得する研究です。わずか1ヶ月。でも、その間に取得したデータが、学会発表に値するレベルに達していた。これ、冷静に考えてすごくないですか?
普通、学会発表というのは、最低でも半年から1年かけて研究を積み重ねた結果を披露する場です。それが1ヶ月で実現できる。”投資対効果(ROI)”で考えたら、これほど素敵な経験はありません。でも大変でしたけど、、、グフッ
11月12-14日、青森・八戸へ
前泊を含めて2泊3日。東京駅から新幹線で約3時間、本八戸駅に到着です。

今回は辻先生と、日本大学理工学部の先生方・学生さんたちとの合同遠征でした。こういう他大学との交流も、学会参加の隠れた価値です。人的ネットワークの構築は、将来のキャリアにおいて想像以上に重要になります。

会場の「想像との乖離」
会場は「八戸グランドホテル」。正直、大学の教室レベルを想定していました。ところが実際は、予想を遥かに超える規模。広々とした会場に、企業関係者から大学教授、学生まで、多様なプレイヤーが集結していました。これが学会というものか、と。リアルな研究コミュニティの息吹を肌で感じた瞬間です。

発表の実際:8分という戦場
発表タイトル:「硫化水素―テトラヒドロピランの沸点測定と3次型状態方程式による相関」、発表時間:8分、質疑応答:7分です。これ、実はかなりタイトな時間配分なんです。プレゼンテーションの世界では、1分につき約150語が標準的なペースとされています。8分なら約1,200語。この制約の中で、研究の背景、方法論、結果、考察を過不足なく伝える必要がある。結果から言うと、ぴったり8分で完走しました。事前に何度もリハーサルを重ねた成果です。先生方からも「落ち着いていて良かった」という評価をいただきました。
ただし、質疑応答では課題も浮き彫りになりました。質問の意図を十分に把握できず、的確な返答ができなかった。知識の深さと応用力――この2つがまだ足りないことを痛感しました。でも、これこそが学会参加の本質的な価値なんです。自分の限界を知ること。そして、それを超えるための具体的な課題を明確にすること。
意見交換会という「成長加速装置」
発表後、全発表者が集まっての意見交換会がありました。これが予想外に素晴らしかったです。自分や他者の発表について、「良かった点」「改善すべき点」をその場で共有し合う。フィードバックの即時性が半端ない。普通の研究活動では得られない、濃密な学びの場でした。
ビジネスの世界でも、「PDCAサイクル」とか「アジャイル開発」とか言いますよね。要は高速で試行錯誤を回すことが成長のカギ。この意見交換会は、まさにそのメカニズムが学会に組み込まれていたわけです。1日目の夜には懇親会もありました。大学教授、企業研究者、学生――普段は交わることのない異なるレイヤーの人たちが一堂に会する。弱い紐帯(ウィーク・タイ)の強さというやつです。将来、思わぬところでこの親睦が活きてくる可能性は十分にあります。
投資対効果を冷静に分析する
今回の経験を、ビジネス的な視点で整理してみましょう。
投資(コスト):
- 時間:マレーシア短期留学1ヶ月+学会参加3日
- 労力:実験、データ解析、プレゼン準備
リターン(得られたもの):
- 国際経験: マレーシア工科大学での研究活動、
- 異分野挑戦: 電気電子→化学工学へのクロスオーバー
- 学会発表実績: 履歴書に書ける具体的な成果
- プレゼンスキル: 8分という制約での論理構成力
- 人的ネットワーク: 他大学・企業との接点
- 自己認識: 自分の限界と課題の明確化
特に注目すべきは、電気電子分野の学生が化学工学の学会で発表できたという事実です。これは、私たちの研究室が持つ「分野横断的なアプローチ」の強さを象徴しています。現代の複雑な技術課題は、単一の専門分野では解決できません。異分野を組み合わせる力こそが、これからのエンジニアに求められる能力です。
3年生の皆さんへのメッセージ
正直に言います。1ヶ月前の自分に「来月、化学工学会で発表するよ」と言われても、絶対に信じなかったでしょう。でも、それが現実になった。大学の研究室というのは、思っている以上に多様な機会が転がっている場所です。重要なのは、その機会を掴むかどうか。そして、掴んだ後にどれだけ本気で取り組むか。
今回、私が得た最大の学びは、「自分のコンフォートゾーン(普段の快適空間)から出ること」の価値です。電気電子の学生が化学工学に挑戦する。東京から青森まで行く。企業の研究者たちと議論する。どれも、普段の大学生活では経験できないことばかりでした。
そして、そういう「初めて」の経験こそが、人を成長させるんです。もしあなたが3年生で、「研究室配属、どこにしようかな」と考えているなら、ぜひこう問いかけてみてください。
「ここで、自分がどれだけ成長できるか?」
謝辞
今回の学会参加を実現してくださった辻先生と佐藤先生に、心から感謝申し上げます。先生方の献身的なご指導がなければ、この経験は得られませんでした。そして、このブログを読んでくださった皆さん。もし興味が湧いたら、ぜひ研究室を訪ねてみてください。次にマレーシアに行くのは、あなたかもしれません。
チャンスは、準備された者にだけ訪れる――そんな言葉を実感した2泊3日でした。

