マレーシア短期留学報告:研究編
電子・光機能材料研究室に所属する学部4年の加来です。2025年8月5日から9月1日までの約4週間、インバウンド・スチューデントとしてUTM(マレーシア工科大学)の短期留学プログラムに参加しました。この貴重な体験を振り返り、「研究編」「クランタン編」の全2回に分けてご紹介します。これからマレーシア留学を検討している学生の皆さんの参考になれば幸いです。今回は先生不在で一人で約一ヶ月の滞在になりました。信頼と安心のUTM residenceに滞在しておりました。真夜中のツインタワーを見るのが最高でした!
昨年度の短期留学報告は以下に示します。
「研究編」
今回の短期留学では、MJIIT(マレーシア日本国際工科大学)の辻先生のご指導の下で研究実習を行いました。研究テーマは「化学工学」分野の中でも「高圧系」の研究でした。化学工学とは、化学反応を工業的に応用するための学問で、化学の知識と機械工学の技術を組み合わせて、効率的で安全な生産プロセスを設計・運用する分野です。電気電子工学を専攻とする私にとって、これまで触れたことのない新鮮な分野でした。
1.高圧系研究の現場
特に印象深かったのは「高圧系」という研究分野の特殊性です。一歩間違えれば非常に危険な実験環境であり、さらに今回は、硫化水素といった危険物質を扱うため、研究室全体に緊張感が漂っていました。 実験は、「ケミカル作成」→「ローディング」→「測定」という3つの工程から構成されており、一回の測定毎に一連の流れを2〜3日かけて慎重に進めていきました。最終的に、5点の測定を行いました。
- ケミカル作成:硫化水素を処理するための溶液(KMnO₄水溶液、NaOH水溶液)を作成
- ローディング:硫化水素・環状エーテルの充填
- 測定:硫化水素と環状エーテルを混ぜたときの沸点を測定
この危険な環境では、オペレーター(実験の主担当者)とプロシージャ(補助担当者)に分かれて作業を行います。オペレーターは実験の核となる操作を担当し、プロシージャはオペレーターの動きを先読みして器具の受け渡し等のサポートをしたり、散らかって事故が起きないように使用した器具を即座に片付ける等の重要な役割を担います。
この役割分担は、手術室での医師と看護師の関係によく似ていると感じました。どちらも命に関わる重要な場面だからこそ、高い緊張感を持ち、明確な分担が不可欠です。私は主にプロシージャ役として実験に参加しましたが、研究者の皆さんが安全性と精度を両立させるために、いかに多くのことを同時に考えながら実験を進めているかを目の当たりにし、大きな衝撃を受けました。
2.英語でのコミュニケーションの挑戦
辻先生は日本人でしたが、研究室のメンバーとは英語で会話していたため、コミュニケーションが難しいときがありました。特に専門的な実験用語や細かい指示を理解するのに苦労することもありましたが、とにかく言いたいことを簡単な英語で伝えることを心がけ、積極的に話をしたいという態度を示すことで、なんとかやっていくことができました。研究室のメンバーも私の状況を理解してくれ、ゆっくりと話してくれたり、身振り手振りで説明してくれたりと、とても協力的でした。
3.マレーシアならではの研究体験
さらに今回は、サブ研究として、マレーシア原産の果物「ドリアン」のガス測定実験も行いました。まさにマレーシアでしかできない研究テーマで、現地ならではの貴重な体験でした。測定後のドリアンは、研究室のメンバー全員で美味しくいただきました。
4.まとめ
今回の留学は、慣れない学問分野に加えて英語での研究活動という二重の挑戦でした。留学前は大きな不安を抱えていましたが、辻先生をはじめとする研究室の皆様、日本でご指導いただいている佐藤先生、そしてJICAスタッフの方々の温かいサポートのおかげで、充実した研究生活を送ることができました。心から感謝しています。
「クランタン編」
今回の短期留学では先生方のお誘いを受けて、クアラルンプール(KL)を離れてマレーシア・クランタン州にあるUMK(マレーシア・クランタン大学)へと2泊3日で訪問しました。この記事では、クランタンでの貴重な体験を詳しくご紹介します。
1日目:コタバル到着と伝統文化との出会い
初日は、KLからクランタン州の州都コタバルへ飛行機で約1時間のフライトでした。私を含め、辻先生、タン先生、台湾の先生の4人でUMKを訪問しました。
コタバル空港では、UMKの先生方が温かく出迎えてくださり、そのままコタバル市内を案内していただきました。コタバルの第一印象は「ザ・田舎」、近代的なKLとは対照的で、伝統的なコタバルの風景には、どこか哀愁を感じる魅力がありました。
市内では伝統的な市場、博物館、服屋などを巡りました。
特に印象深かったのは服屋での出来事で、先生方が私にバティック(マレーシアの伝統的なろうけつ染めの布で作られた衣服)を購入してくださったことです。色鮮やかな模様が美しく、マレーシアの伝統工芸の素晴らしさを実感しました。ザ・マレーシアになってきました!
コタバル観光後、UMKジェリキャンパス周辺の宿泊先まで車で約2時間かけて移動しました。
2日目:熱帯雨林での自然体験
2日目は、マレーシア伝統の朝食「ナシクラブ」から始まりました。ナシクラブは、ココナッツミルクで炊いたご飯にスパイシーなカレーやおかずを組み合わせた料理で、マレーシア東海岸地域の代表的な朝食です。日本の朝食とは全く異なる味わいでしたが、とても美味しくいただきました。
朝食後、UMKが所有する熱帯雨林研究センター「TRaCe(Tropical Rainforest Research Center)」へ移動しました。ここでは熱帯雨林に広がる河川をボートで探索するという、日本では絶対に体験できない貴重な経験をしました。
この探索では主に以下のような活動を行いました:
- 魚類養殖場の見学
- 原住民の村への訪問
- 熱帯雨林でのハイキング
原住民の村では、伝統的な生活様式を学ぶとともに、吹き矢を実際に体験させていただきました。思った以上に難しく、的に当てるのに苦労しましたが、現地の方々の温かい指導のもと、貴重な文化体験をすることができました。
なんと、ハイキング中に世界最大の花として知られる「ラフレシア」を発見することができました!
3日目:大学間交流とディスカッション
3日目はいよいよUMKのジェリキャンパスを正式に訪問しました。まず、GREAT(Gold, Rare Earth & Material Technology Research Centre)の研究施設を見学し、その後FBKT(Faculty of Bioengineering and Technology)でディスカッションを行いました。
GREATは、その名の通り金やレアアース、先端材料技術の研究に特化した研究センターです。マレーシアは世界有数のレアアース産出国であり、これらの貴重な資源を活用した材料開発や応用技術の研究が行われています。施設では最新の分析装置や実験設備を見学し、日本ではあまり触れることのない資源工学分野の研究現場を体験できました。
FBKTは生物工学と技術を融合させた学部で、バイオテクノロジーを活用した様々な応用研究が行われています。農業技術、食品科学、環境保全技術など、マレーシアの豊かな生物資源を活かした持続可能な技術開発に取り組んでいます。今回はUTM(マレーシア工科大学)とUMK(マレーシア・クランタン大学)との交流が主な目的だったため、私自身が発表する機会はありませんでしたが、大学間での英語によるアカデミックディスカッションを間近で見ることができ、非常に良い学習体験となりました。
ディスカッション終了後、再び車で2時間かけてコタバルへ戻り、さらに飛行機で1時間かけてKLに到着し、今回のUMK訪問を終えました。
体験を振り返って
今回の貴重な体験を通して、マレーシアの伝統文化と豊かな自然に直接触れることができました。特に熱帯地域特有の生態系の面白さを肌で感じ、同時にこの貴重な自然環境を保護するための様々な取り組みについても学ぶことができました。研究だけでは得られない、マレーシアの多面的な魅力を発見した3日間でした。