バンドン工科大学との国際交流 続編 ~AOTS施設紹介と研究の質を考える~

前回の記事では、インドネシア・バンドン工科大学(ITB)のティルト工学部長の訪問について概要をお伝えしました。今回は、より実践的な国際交流の側面と、研究の質を高めるための重要な視点について、詳しくご紹介したいと思います。
AOTS東京研修センター:東京電機大学の国際研究交流の拠点
ティルト先生が滞在されたAOTS(海外産業人材育成協会)東京研修センターは、北千住駅から徒歩圏内という絶好のロケーションにあります。実際に施設を訪問し、その充実した環境を確認してきました。
AOTSの特徴:
- 快適な宿泊施設:シングルルームから和室まで多様な部屋タイプ
- 充実した研修設備:会議室、セミナールーム完備
- 国際交流スペース:各国からの研修生との自然な交流が可能
「こんな素晴らしい施設が北千住にあることを、もっと多くの研究者に知ってもらいたい」というのが正直な感想です。東京電機大学から近いだけでなく、秋葉原へのアクセスも良好で、研究者にとって理想的な滞在先といえるでしょう。
ティルト先生の革新的研究:廃棄物から生まれる次世代エネルギー
今回のシンポジウムで、ティルト先生は非常に興味深い研究を発表されました。インドネシアが抱える環境問題を、最先端の材料科学で解決しようという野心的なプロジェクトです。
パームオイル廃棄物の有効活用
インドネシアでは、年間4,690万トンのCPO(粗パームオイル)生産に伴い、約3,500万トンものバイオマス廃棄物が発生しています。ティルト先生のチームは、この廃棄物を高性能なスーパーキャパシタ用炭素電極に変換する技術を開発しています。
研究の特徴:
- 2017年から継続:水熱反応を用いたバイオマス炭素の比較研究からスタート
- 実用化への道筋:2022-2024年にプロトタイプ製作、玩具や小型モーターの駆動に成功
- 電動バイクへの応用:加速性能の向上を実証
研究チームは、尿素や過硫酸アンモニウムを添加剤として使用し、窒素ドーピングによる性能向上を実現しました。ティルト先生は、現在の最大の課題として「パッケージング技術」を挙げられました。セルやコインのパッケージング密度が不十分なため、電力供給と電流出力が最適化されていないとのこと。この課題解決が、実用化への鍵となります。
研究の質を測る:Q1、Q2ジャーナルとは?
ティルト先生との会話の中で、インドネシアの学位取得要件について興味深い話を伺いました。インドネシアでは博士号取得にQ1またはQ2ジャーナルへの論文掲載が必須とのこと。この話をきっかけに、「Q1ジャーナル」「Q2ジャーナル」という研究評価の重要な概念について、電子システム工学科の皆さんにもぜひ知っておいてほしいと思います。
Quartile(四分位)システムの基本
学術雑誌は、その分野での影響力(インパクトファクター)によってランク付けされています:
- Q1(第1四分位):その分野の上位25%に入る最も影響力のある雑誌
- Q2(第2四分位):上位25-50%の雑誌
- Q3(第3四分位):上位50-75%の雑誌
- Q4(第4四分位):それ以外の雑誌
なぜQ1を目指すのか?
- 国際的な認知度:Q1論文は世界中の研究者に読まれる
- 研究費獲得:高インパクトな研究実績は資金調達に有利
- キャリア形成:若手研究者にとって重要な業績
- 国際協力の成果:共同研究の質を客観的に示す指標
「良い研究は良いジャーナルに」—これは研究者の基本姿勢です。バンドン工科大学との共同研究でも、Q1ジャーナルへの掲載を目標に、質の高い研究を進めていく予定です。ちなみにマレーシア工科大学の共同執筆論文もQ1です。
https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0048969725015499
東京での研究者交流:秋葉原巡りと食文化
研究者同士の交流は、学会や研究室だけで行われるものではありません。ティルト先生と一緒に、日本の電子部品文化の中心地・秋葉原を訪れました。
「こんなに多様な電子部品が、すぐに手に入るなんて!」
ティルト先生は、秋月電子と千石電商の品揃えに目を輝かせていました。インドネシアでは入手困難な部品も、ここでは当たり前のように並んでいます。研究者にとっての「聖地巡礼」は、新たな研究アイデアを生む刺激的な体験となりました。さっそく精密ドライバーをお土産で購入されておりました。
インドネシア料理で深まる相互理解
国際交流を深める上で、食文化の共有は欠かせません。実は以前、ジャカルタ訪問時に友人に連れられて「Lembur Kuring」に行ったことがあります。
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Lembur Kuring
https://lemburkuring.com/
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ナシゴレンやサテを味わいながら、インドネシアの研究環境や文化について理解を深めることができました。美味しい料理は、研究の話も弾ませてくれます。こうした文化交流の積み重ねが、真の国際協力の基盤となるのです。
まとめ
ティルト先生の訪問を通じて改めて実感したのは、国際交流が研究の質を飛躍的に高めるということです。異なる視点、異なる技術、異なる文化が交わることで、新しい発見が生まれます。東南アジアとの協力は、まだまだ可能性に満ちています。バンドン工科大学のような優秀なパートナーと共に、世界に通用する研究成果を生み出していきましょう。
今後、実際の共同研究プロジェクトの進捗について、詳しくお伝えする予定です。国際交流に興味のある学生の皆さん、ぜひ研究室にお越しください。