高校生に電子回路を教えるということ~品川女子学院ハンズオン講座レポート

先日も、かなり刺激的な体験をしてきたので、その話をしようと思います。
—————–
【中高大連携】「理系の世界を覗いてみよう」
https://www.dendai.ac.jp/news/20251201-01.html
—————–
皆さん、中高生に90分間で「ゼロから電子回路を完成させる」という無茶な挑戦をしたら、どうなると思いますか?しかも相手は、半田ごてを触るのも初めての品川女子学院の生徒たち。「絶対に無理だろう」と思うかもしれませんが、実際にやってみた結果は、予想を遥かに超えるものでした。

なぜ「ウルトラタイマー」なのか
まず前提を整理しましょう。今回の講座は、品川女子学院との中高大連携プログラムの一環です。生命科学系、化学系、そして電気系の教員という、異なる3分野からのアプローチで「理系の世界」を見せるという企画でした。私が選んだテーマは「ウルトラタイマー電子回路製作」。なぜこれを選んだか。理由はシンプルです。電子回路ほど「理系の本質」を体感できる教材は少ないからです。当研究室の学生2名もサポートで参加しました。
回路図を読む→部品を選ぶ→配線を考える→実際に組み立てる→電源を入れる→LEDが光る。
この一連のプロセスには、理論と実践、抽象と具体、失敗と成功のすべてが詰まっています。教科書を100ページ読むより、半田ごて1本持たせた方が遥かに多くを学べる。これが工学の本質です。

90分という戦場
時間配分はこうです:
- 導入・説明:15分
- 実習:70分
- 動作確認・まとめ:5分(すみません、時間が足りない状況でした、、)
これ、実はかなりタイトなスケジュールなんです。普通の大学の実験実習だと、同じ回路を作るのに最低でも2コマ(180分)は使います。それを半分の時間で、しかも初心者に完成させる。結果から言うと、20名近い参加者全員が時間内に完成させました。途中、ICの不調と半田付けに苦戦する場面はありましたが、互いに助け合いながら、最終的には全員のタイマーから「イッツアスモールワールド」のメロディーが流れた。この瞬間、理科室が歓声に包まれたのは、正直言って感動的でした。
「解像度が上がった」という言葉の重さ
講座後、生徒からのコメントで最も印象的だったのが「大学における学びの解像度が上がった」という表現でした。

この言葉、本質を突いていると思いませんか?多くの中高生は「理系って何をやるのか」を漠然としたイメージでしか知らない。「数式を解く」「実験する」「研究する」——確かに間違いではないけれど、それは4K映像を粗いドット絵で見ているようなものです。
実際に自分の手で回路を組み立て、理論通りに動作することを確認する。回路が動かないときは必ず理由があり、その理由を論理的に特定し、解決する。この体験が「解像度」を劇的に上げるんです。工学部で学ぶということは、抽象的な知識ではなく、具体的な「モノ」と「現象」と向き合うことです。そして、その面白さは、実際にやってみないと絶対に分からない。
投資対効果を冷静に考える
今回の講座も、ビジネス的な視点で分析してみましょう。
投資(コスト):
- 時間:準備1週間+当日90分
- 費用:部品代(1セット約500円×20セット)
- 労力:資料作成、部品調達、事前テスト
リターン(得られたもの):
- 生徒側:電子工作の実体験、理系進路の具体的なイメージ、達成感
- 大学側:高校との連携強化、入試広報効果、教育メソッドの蓄積
- 個人的:教育スキルの向上、アウトリーチ経験、品川というオシャンティーな都市の雰囲気
特に注目すべきは、この経験が参加者の進路選択に与える影響です。統計的なデータはありませんが、こういう「手を動かす」体験をした生徒の理系進学率は明らかに高い。文部科学省も「STEM教育」とか言っていますが、結局のところ、座学では限界があるんです。
中高大連携の本質的な価値
正直に言います。中高大連携というと、形式的なイベントに終わりがちです。大学教員が講義して、生徒が拍手して終わり。それで何が変わるんでしょうか?今回、私たちが目指したのは「体験の質」です。90分という短い時間でも、実際に自分の手で何かを作り上げ、それが動く。この「できた!」という体験が、進路選択における「解像度」を確実に上げる。
工学部での学びは、講義室ではなく、実験室で始まります。理系への興味は、スライドではなく、半田ごてから生まれる。これは間違いない事実です。
高校生の皆さんへのメッセージ
もしあなたが大学進学を考えているなら、こう問いかけてみてください。
「ここで、どれだけ実践的な経験ができるか?」
教科書を読むのも大事。計算するのも大事。でも、実際に手を動かして、モノを作って、それが動く瞬間を体験する。これ以上の学びはありません。今回の講座で最も印象的だったのは、生徒たちの集中力でした。理科室に20名が集まり、黙々と半田付けに取り組む。うまくいかないときは互いに助け合い、完成したときは一緒に喜ぶ。

「理系って楽しい」——この感覚を、90分で伝えることができた。それが今回の最大の成果です。
次にこの講座を受けるのは、あなたかもしれません。


