電子システム工学の真髄:ソフトウェアとハードウェアの両輪を制する者が未来を拓く

いや~オープンキャンパスと採点で何度も現実逃避をしかけて消耗しましたが、やっと前期も終わり、夏休みですね!皆さん、熱中症にはご注意を!後期にお会いできることを楽しみにしております。

電子システム工学科の皆さんのような最先端技術の時代を生き抜くエンジニアに必要なのは、ソフトとハードの深い理解力。生成AIが溢れる現代だからこそ、基礎を固め、両方の世界をマスターすることが真の競争力になります。

生成AI時代の電子工学 – 基礎理解の重要性が増す理由

近年、生成AIの発展により「プログラミングだけできれば十分」という風潮が広がっていますが、これは非常に危険な考え方です。

生成AIは確かに強力なツールですが、それを正しく使いこなすためには、電子工学の基礎原理を深く理解していることが不可欠です。なぜなら、AIが提案する解決策の妥当性を評価できなければ、致命的なミスを見逃してしまうからです。

電磁気学、電子・光材料、回路理論、プログラミングといった基礎科目は、単なる「暗記科目」ではありません。これらは電子機器の「なぜそうなるのか」という本質的な理解を与えてくれるものです。この理解なしに表面的なプログラミングスキルだけで製品開発を行うことは、砂上の楼閣を築くようなものです。

「オームの法則も知らずに回路設計?」生成AI依存の危険性

生成AIだけに頼った学習の危険性を示す典型的なシナリオをご紹介します:

このような「AIに丸投げ」する姿勢は、将来的に深刻な問題を引き起こす可能性があります。基礎理論を理解していなければ、AIが生成した解決策の妥当性を評価することさえできないのです。

日本の大学教育とグローバルスタンダードの乖離

よく生成AIの活用方法について議論されますが、その内容は表面的なものにとどまりがちです。特に、評価方法に関する議論では、以下のような対比が見られます:

海外大学のアプローチ(メルボルン大学など)

https://www.unimelb.edu.au/tli/learning-design-and-assessment/preparing-for-teaching/navigating-genai

  • 「AIと共存する教育」を前提とした授業設計
  • プロジェクトベース学習、ポートフォリオ評価の重視
  • 「プロセスの見える化」と「自分独自の価値創造」の評価
  • AIを使った学習プロセスも評価対象に

日本の多くの大学の現状

  • 生成AIによる不正防止=ペーパー試験(持ち込み禁止)
  • 「AIが使えない状況で実力を測る」という発想
  • 基礎知識の評価方法についての深い議論の欠如
  • 「クリエイティブ」を強調するが具体策に乏しい

しかし、個人的には「基礎科目と応用科目の区別」が議論から欠落していることに強い懸念を感じています。電磁気学、電子・光材料、プログラミング基礎などの科目は、単なる「暗記」ではなく「理解と”運用能力”」の問題です。オームの法則やマクスウェル方程式は「創造的に解釈」するものではなく、確固たる理解が必要な基礎なのです。

基礎と応用のバランス

電子・光材料、電磁気学、プログラミング基礎(C言語)の基礎科目を担当しておりますが、基本的な姿勢として、「レポート作成ではAIの活用を認める」一方で、「基礎知識の習得と理解度はペーパー試験で評価する」というアプローチを取っています。なぜこのようなバランスが重要なのでしょうか?それは、将来のエンジニアとして活躍するためには、AIを適切に活用する能力と同時に、AIの出力を正しく評価できる確固たる基礎知識が不可欠だからです。

AIの適切な活用場面

  • レポート作成の初期ドラフト
  • 複雑な概念の説明補助
  • 参考資料の要約と整理
  • プログラムのデバッグ支援

AIに頼るべきでない場面

  • 基本概念の理解プロセス
  • 数式の導出と解釈
  • 物理法則の本質把握
  • プログラミングの基本構造

AIツールは強力な補助手段ですが、それは基礎がしっかりしている人にとってこそ真価を発揮します。基礎なしにAIの出力を鵜呑みにする危険性を理解してもらうことが、私のアプローチになります。AIと共存する時代だからこそ、基礎をしっかり固めることの重要性は増しているのです。

ソフトウェアとハードウェアの融合がもたらす可能性

電子システム工学の醍醐味は、ソフトウェアとハードウェアの両方を理解し、それらを融合させることで生まれる無限の可能性にあります。特に最近の技術トレンドでは、この両方の知識を持つエンジニアの価値が急速に高まっています。

プログラミングだけを学ぶ学生と比較して、ハードウェアとソフトウェアの両方を理解する学生は、システム全体を俯瞰できる貴重な視点を持つことができます。例えば、センサーの物理的特性を理解していれば、そのデータを処理するアルゴリズムも最適化できるのです。

生成AIが普及した現代においても、あるいはむしろAIが発達したからこそ、物理的な制約と論理的な処理の両方を理解するエンジニアの需要は高まっています。AIが提案するソリューションが実際のハードウェア上で実現可能かどうかを正確に判断できる能力は、代替困難な価値を持つのです。

AIツールを活用した効果的な学習方法

私のオススメ学習サイクルは以下の通りです:

  1. 教科書や講義で基本概念を理解する
  2. 自分の力で問題に取り組む
  3. 行き詰まったらAIに質問し、ヒントを得る(完全な解答でもいいかな~と、、、多分ちょっと違うと思える所まで到達してほしいです)
  4. 得られた知見をもとに再度自分で解決を試みる
  5. 解決後、複数の解法をAIに生成させて比較分析する
  6. 学んだことを自分の言葉でまとめ、理解を定着させる

この方法では、AIは「答えを教えてくれる存在」ではなく「学習プロセスを強化するパートナー」として機能します。最終的な理解と思考力は皆さん自身のものであり、それがAIと共存する時代に真の競争力となるのです。

業界が求める「両刀使い」エンジニアの姿

特に生成AIの発達により、基本的なコーディング作業の多くは自動化されつつあります。一方で、「ハードウェアの制約を理解した上でソフトウェアを最適化できるエンジニア」や「ソフトウェアの可能性を活かしたハードウェア設計ができるエンジニア」は慢性的に不足しているとのことでした。

実際の業界では、次のようなスキルセットを持つ「両刀使い」エンジニアが高く評価されています:

  • 組み込みシステム開発において、限られたリソース内で効率的なコードを書ける
  • センサーやアクチュエータの物理的特性を理解し、それを活かしたアルゴリズム設計ができる
  • ハードウェアとソフトウェアのトレードオフを適切に判断できる
  • システム全体を俯瞰し、最適なアーキテクチャを設計できる
  • 新しいハードウェア技術の可能性を見抜き、それを活かした革新的なアプリケーションを構想できる

このような「両刀使い」エンジニアは、単なる「プログラマー」や「回路設計者」とは一線を画す存在であり、今後のIoT時代においてさらに価値が高まることでしょう。

これからの電子工学を学ぶ皆さんへ

最後に、電子工学を志す皆さんへのメッセージをお伝えします。生成AIが急速に発展する現代において、真に価値あるエンジニアになるためには、ソフトウェアとハードウェアの両方の世界を理解することが不可欠です。「基礎なくして応用なし」という言葉があります。電磁気学、電子材料、回路理論などの基礎科目は、単なる「暗記科目」ではなく、電子機器の「なぜそうなるのか」という本質的な理解を与えてくれるものです。この理解があってこそ、AIツールも真に強力な味方となるのです。

皆さんには、以下の3つのことを心がけて学んでいただきたいと思います:

  1. 基礎を疎かにしない:バンドギャップ理論、マクスウェル方程式、オームの法則など、基礎理論をしっかり理解することが、すべての応用の土台となります。
  2. 両方の世界を探求する:ハードウェアとソフトウェア、どちらかに偏らず両方の知識を深めることで、システム全体を俯瞰できる貴重な視点が得られます。
  3. AIを賢く活用する:AIは強力なツールですが、それを正しく使いこなすためにも基礎知識が必要です。AIに丸投げするのではなく、AIとの対話を通じて自分の理解を深める姿勢が重要です。

電子工学の醍醐味は、理論と実践、ソフトウェアとハードウェア、抽象と具体、これらの融合から生まれる創造性にあります。皆さんがこの両方の世界をマスターし、次世代の革新的な技術を生み出す原動力となることを心から願っています。

学びの旅は決して楽ではありませんが、その先には無限の可能性が広がっています。共に学び、共に成長していきましょう。

電子システム工学科の1年生にとっては前期で、ワークショップや基礎理論を習得していったと思います。後期のワークショップ2ではプロジェクトベース(PBL)学習、ポートフォリオ評価(毎週の進捗、試行錯誤の量と質)の重視が主になってきます。「プロセスの見える化」と「自分独自の価値創造」の評価をしていきたいと思いますので頑張っていただきたいと思います。

個人の経験や視点を活かした独自提案しても、「独自の価値創造の例を教えて」とAIに質問し、結果はみんな似たような「独自性」になってしまうこともあるかもしれません。基礎がないと:

  • プロジェクトで何が問題かすら理解できない
  • ポートフォリオがただの作品集になる
  • プロセスはAIへの質問履歴でしかない
  • 独自性はプロンプトの工夫程度

結局、オームの法則も知らない学生には、どんな評価方法でも意味がないので、大学生活後半でこそ生成AIは進化を発揮すると思っております。後半で間に合うので心配しないでください。。。

基礎力の差がAI時代により拡大する

残酷な話もあります。基礎のあるメンバーほど、優位性が高まります。結局、「わかってる人」と「わかってない人」の差がAIで100倍に拡大するだけです。

  • 「この材料の熱伝導率は…」AIの出力を検証できる能力
    • 基礎あり:「物理的に矛盾してる。フォノン散乱の観点から…」
      基礎なし:「AIがそう言ってるから正しいはず」
  • 高度な質問ができる
    • 基礎あり: より深い問いを立てられる、AIも良い質問には良い答えを返す
      「ゴミin、ゴミout」の法則
  • 異分野統合の差
    • 基礎あり:量子力学×情報理論×材料科学を統合した新提案
      基礎なし:「量子コンピュータ 応用例」でググった内容

研究現場であっても、

  • 基礎方程式の誤用
  • 物理的に不可能な仮定
  • 単位の間違い(AIもよくやる)
  • 前提条件の理解不足

というのもあります。これは、AIは膨大なテキストデータから統計的パターンを学習しますが、数式の「物理的意味」は理解していません。例えば、F = ma と F = m/a を「文脈的に似ている」と判断してしまうことによります。AIは強力な「計算補助ツール」ですが、「物理的直観」の代替にはなりません。だからこそ、企業の採用担当者もAI使えますアピールの学生より、マクスウェル方程式を導出できるより考え込む力がある学生が欲しいのかもしれません。。。

    差が戦艦大和vs駆逐艦じゃなくて、原子力空母vs手漕ぎボートくらいの差になりそうです。

    今後は、、、

    生成AI時代において、中規模のグループが大規模のグループと競争することは、条件次第では十分可能になると思います。ただし、それには明確な戦略と前提条件が必要です。

    成功への3つの戦略的アプローチ

    1. 第一に、ニッチ分野での深掘り戦略です。大規模グループが見逃しがちな特定領域に焦点を絞り、その分野の基礎を徹底的に極めた上で、AIツールをフル活用することで独自の強みを築けます。
    2. 第二に、実装・実用化での優位性を活かすことです。大規模グループが理論的に完璧でも実装面で苦戦することがある一方、中規模のグループは現場のニーズを的確に捉え、AI活用により迅速に実用化できる強みがあります。
    3. 第三に、学際的アプローチの活用です。小回りの利く組織構造を活かし、AIツールで他分野の知識を効果的に補完しながら、独自の組み合わせによる革新的な研究を展開できます。
      成功の前提条件

    しかし、これらの戦略が機能するには重要な前提条件があります。成功する中規模のグループには共通して、専門分野の基礎を徹底的に理解し、リーダーがAIツールに精通し、「基礎なきAI活用」を許さない文化が必要だと思います。逆に失敗するパターンも明確です。「AIがあるから基礎は不要」という考えや、見た目だけを重視するような姿勢では、真の競争力は生まれません。結論として、基礎力のある人が戦略的にAIを活用すれば、中規模のグループでも十分に競争できます。しかし、表面的なAI活用に終始する教員が増えれば、その可能性は失われてしまう気がしますね。

     

     

     

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