2025年度「品質管理」レポート総括:日本の品質不正と、学生たちの目

今年度の品質管理も終了です。電子システム工学科、先端機械工学科、機械工学科の履修者で120名を超えましたが、なんとか終えることができました。例年行っている最終レポートですが、見事なまでに「日本の品質不正カタログ」になりました。使いまわししている内容ですが、以下の内容です。
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日経新聞などから「最近1年以内の」品質管理・品質保証問題(品質不正)に関する記事を題材にすること、その記事をもとに、①問題の背景、②問題の原因、③対策(暫定対策・恒久対策)、④自分の考える対策を「丁寧に」解説すること
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川崎重工の潜水艦エンジン不正、三井金属パーライト、三菱電機の風土改革、ミニストップの消費期限偽装、日医工の後発薬不正……日経テレコンでここ数年の不祥事を追いかけた人なら、だいたい一度は見たことがある顔ぶれなのではないでしょうか?
題材は「使い回し」、中身は意外と多様

まず事実として、同じ事件を扱ったレポートはかなり多かったです。川重・潜水艦エンジンだけで十数本、三井金属パーライトも同じくらい、三菱電機とミニストップも人気テーマでした。ただし、同じ記事を読んでも、書いてくるものはだいぶ違います。
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記事をほぼ要約して終わるタイプ
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表面的な「原因→対策」でまとめるタイプ
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そこから一歩踏み込んで、「この会社のQMS(品質マネジメントシステム)はどこで壊れていたのか」「組織風土とインセンティブ設計がどう噛み合って不正を量産したのか」まで書いてくるタイプ
今回、上の層に来ているレポートはだいたい三つ共通点がありました。
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記事を「出来事」としてではなく、「品質マネジメントの失敗事例」として読んでいる
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授業でやった概念(QMS、統計的品質管理、心理的安全性、同調圧力、監査の独立性など)を、自分の言葉で事例に接続している
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会社の対策をただ紹介するのではなく、「それではまだ足りない理由」と「自分ならどう設計し直すか」まで書いている
例えば、川重の潜水艦エンジン不正を扱ったレポートのうち、高得点のものは、
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「不正を生んだのは『仕様未達でもデータを直せばいい』という暗黙の常識だ」と整理し
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「悪いデータを上げた人間を評価する制度」「人がそもそもデータに触れられないDX設計」の両方を提案し
こうなると、もはや「学生レポート」というより、日本の品質不正に対するなかなかまともなポジションペーパー(ある特定の課題や問題に対して、組織や個人が自らの「立場(Position)」を明確にし、その根拠や見解を論理的にまとめた公式文書)になってます。生成AIのサポートを受けているにしても、就職活動のいい訓練になったと実感しております。
日本の品質不正ブームに、学生たちはどう向き合ったか

「日本製=高品質」という神話もある一方で、データ改ざん、検査省略、認証不正、消費期限偽装、無資格作業――業種も規模も関係なく、同じパターンの不正が繰り返されています。レポートを読んでいて感じたのは、多くの学生が「これは悪い社員がこっそりやった話」だとは見ていない、ということです。
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「納期と売上至上主義で、現場が不正に追い込まれている」:納期と売上至上主義で、現場が不正に追い込まれている構造を指摘。KPIが品質を無視した設計になっていることへの批判。
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「品質部門が製造の下請けになっていて、牽制になっていない」:品質部門が製造の下請けになっていて、牽制になっていない現実。組織内のパワーバランスの問題として捉えている。
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「内部通報が最後の砦なのに、実際には機能していない」:内部通報が最後の砦なのに、実際には機能していない事実。制度はあっても、使えば不利益を被る暗黙の了解がある。
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「悪いデータ=悪い技術者、という評価軸だから、誰も正直なデータを出したがらない」:インセンティブ設計の根本的な誤り。
といった構造面をきちんと指摘する文章が目立っておりました。個人の倫理ではなく、組織の構造に目を向けています。
中には、「ブロックチェーン+AIで検査データを改ざんできないようにする」「IoT+自動記録で、人間を不正の圧力から守る」といった、やや攻めた提案もありました。

技術屋としては、そのくらいガチで「システムに不正させない」方向に振り切る発想の方が、ポスターに貼るだけの『コンプライアンス標語』よりよほど健全だと思いました。
「記事要約」で終わるか、「自分の言葉」で語るか

評価の差が一番はっきり出たのは、「その事件について、どこまで踏み込んだ」かです。
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記事の数字と事実を並べるだけ
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企業の発表した再発防止策を、ほぼそのまま写す
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「教育を徹底する」「意識を改革する」で締める
というパターンもいいのですが、せっかく生成AIも使えるので以下まで踏み込むことが必要になります。
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経営指標(KPI)と不正の関係まで踏み込む
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組織設計として語る
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自分が将来技術者・マネージャーになったときのスタンスまで言語化している
講義でやった内容が、「試験対策」ではなく「自分の職業観」の材料として使われているレポートは、読んでいて単純におもしろかったです。
教員としての反省と、次回への宿題

教員目線で言えば、今回のレポートで見えたことは二つです。
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まともに構造を考える学生には、かなり難しいテーマを投げてもきちんと咀嚼できる
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一方で、「記事要約+一般論」から脱出できない層もそれなりにいる
これは学生の問題というより、こちらの設計の問題でもあります。品質不正の話はどうしても「他人の失敗談」になりがちです。事例選びを完全に自由にすると、どうしても「日経の1面をなぞる」タイプが増え、もう少し「視点」を指定しても良かったかもしれないですが、色々な事例が知れるのでこちらとしても助かりますから、このスタンスでいいのかと思っています。
まとめ:品質管理は「道徳」ではなく「設計」
品質の話になると、日本の会社はすぐ「教育」「意識」「誠実さ」に寄せたがります。もちろんそれも大事ですが、今年のレポートを読んで一番感じたのは、「ちゃんと設計すれば、そんなに人間の善意に頼らなくても済む」という、当たり前だけど忘れられがちな事実でした。
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人が触れると誤魔化せるなら、そもそも人が触れないようにする
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不正をすれば短期的には得をする設計を変えない限り、「モラル教育」は焼け石に水
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「悪いデータ」が設計改善の出発点だと組織全体が理解しないと、統計的品質管理は機能しない
今回の優秀レポート群は、そこをちゃんと見抜いていました。こういう学生たちが将来、どこかの工場や開発部門で、「おかしいものはおかしい」と言ってくれるなら、日本の品質はまだそこまで捨てたものではない、と思ってます。


