マレーシアのラマダンとハリラヤ:異文化理解への扉
はじめに
「あれ?いつも開いているはずのお店が閉まっている…」
マレーシア滞在中、突然街の様子が変わったことに気づいたことはありませんか?普段賑わっているショッピングモールのフードコートが閑散としていたり、地元の屋台が軒並み店を閉めていたり。これは単なる偶然ではなく、イスラム教の重要な行事「ラマダン」の期間に訪れた証拠かもしれません。マレーシア工科大学でも3月になり、これが起きました。
今回は東京電機大学電子システム工学科の皆さんに向けて、マレーシアで体験したラマダンとハリラヤについてお伝えします。早口言葉にしたら絶対に噛みます。。特に私はハリラヤを10回連続で言えません。ハリヤラだったり文字が逆になります。。
イスラム教徒が人口の約60%を占めるマレーシアでは、この時期は国全体が特別な雰囲気に包まれます。異文化理解の第一歩として、この重要な行事について知っておくことは、グローバル社会で生きる私たちにとって大切なことです。もちろん、イスラム教徒限定になりますので、中華料理系のレストランは通常営業です。
ラマダンとは?
ラマダンはイスラム暦の第9月にあたる1ヶ月間の断食月です。イスラム教の「五行」と呼ばれる5つの義務の一つで、日の出から日没までの間(一ヶ月絶食するわけではありません)、飲食はもちろん、喫煙なども慎みます。
重要なのは、ラマダンの時期は毎年約11日ずつ前にずれていくこと。これはイスラム暦が太陽暦より短い354日(約)であるためです。例えば2024年のラマダンは3月11日〜4月9日、2025年は3月1日〜3月30日頃に実施されます。そのため、数年ごとに季節も変わり、時には猛暑の夏、時には過ごしやすい春に断食月がやってきます。まあ、マレーシアは年中暑いから、時期の影響は少ないでしょう。
しかし、ラマダンは単なる食べ物の制限ではありません。この期間は自己を見つめ直し、精神を清め、貧しい人々への思いやりを深める大切な時間です。断食を通じて空腹を経験することで、日常的に食べ物に困っている人々の気持ちを理解し、感謝の心を育むという深い意味があります。
ラマダン中のマレーシアの街の様子
ラマダン期間中、マレーシアの街は独特の雰囲気に包まれます。日中、普段なら賑わっている食堂やレストランが閉まっていたり、営業時間を短縮していたりします。先程の写真のように、通常は活気に満ちた食堂街が静かになっている光景は、初めて体験する人には少し驚きかもしれません。ちょっとしたゴーストタウンです。
ただし、観光地やショッピングモールの一部レストランは通常通り営業していることも多いので、非イスラム教徒の旅行者が食事に困ることはあまりありません。むしろ、この時期ならではの特別な食体験ができるチャンスでもあります!
日没後の賑わい – ブカ・プアサ
日が沈むと、マレーシアの街は一変します。「ブカ・プアサ」(断食明け)の時間になると、街中に設置された「ラマダンバザール」と呼ばれる特設の屋台村が活気づきます。
ラマダンバザールでは、断食明けの食事に欠かせない様々な料理が販売されます。マレー系の伝統料理はもちろん、中華系やインド系など多民族国家ならではの多彩な料理が並びます。
地元の人々は日没直前になると、このバザールで料理を買い求め、家族と共に断食明けの食事「イフタール」を楽しみます。イフタールは通常、伝統に従いデーツ(ナツメヤシの実)を食べることから始まります。
きっと若い方なら気づき始めていると思いますが、一日にまとめて、寝る前の「どか食い」をするわけですから、終盤になると肌荒れもすごいことになると思います。
マレーシア流ラマダンの過ごし方
ラマダン中のマレーシア人ムスリム(イスラム教徒)の1日はどのような感じなのでしょうか?
- 早朝(サフール): 日の出前の早朝に「サフール」と呼ばれる食事をとります。これが日中の断食を乗り切るための最後の食事となります。
- 日中: 仕事や学校など、通常の活動を断食しながら行います。肉体労働者などは体力を消耗するため、この時期は特別な配慮がなされることもあります。妊婦さん、病気中の方もです。
- 日没(マグリブ): アザーン(礼拝の呼びかけ)が聞こえると断食が終了。まずは軽い食事やデーツで空腹をしのぎます。
- 夜: イシャー(夜の礼拝)後、モスクでは「タラウィー」と呼ばれるラマダン特有の礼拝が行われます。これは通常の礼拝より長く、コーランの朗読が含まれます。
多くのモスクでは、この期間中、無料の食事を提供することもあります。貧しい人も富める人も同じ場所で食事をする光景は、イスラム教の平等の精神を体現しています。
ハリ・ラヤ・アイディルフィトリ – 断食明けの大祝祭
ラマダンの1ヶ月が終わると、いよいよ「ハリラヤ・アイディルフィトリ」(断食明けの祭り)の到来です。マレーシアではイスラム暦のシャウワール月1日に祝われるこの日を、「Hari Raya Puasa」とも呼びます。2024年は4月10日、2025年は3月31日がハリラヤの予定日です。
ハリラヤはマレーシアの三大祝祭の一つで、日本のお正月のような重要な行事。通常、政府は最低でも2日間の公休を設定し、多くの企業や学校はさらに休暇を延長することも珍しくありません。この時期になると、マレーシア人は「バリック・カンポン」(故郷に帰る)と呼ばれる大移動を行い、遠方に住む家族のもとへ帰省します。高速道路は大渋滞となり、バスや飛行機のチケットは数ヶ月前から売り切れることも!料金が跳ね上がります↗
ハリラヤの伝統料理として欠かせないのが「ケトゥパット」。もち米をヤシの葉で三角形に編んだ容器で炊き上げた料理で、イラストでも特徴的な形を強調するとわかりやすいでしょう。これにカレーやルンダンなどの煮込み料理を添えて食べます。
各家庭では「オープンハウス」と呼ばれる習慣があり、親戚や友人、ときには見知らぬ人まで自宅に招き入れてごちそうでもてなします。マレーシアの多民族文化を象徴するように、非イスラム教徒の友人も招かれることが多いのが特徴です。このオープンハウスはチャイニーズニューイヤーでも同様でした。
若者の体験 – 日本人留学生の視点
ハリラヤの時期は、後期終了時期と重なることもあり、マレーシアに留学している多くの日本人学生にとっても特別な経験となります。写真にあるように、ハリラヤ開始とともに帰国のバスに乗る日本からの留学生たちの姿もマレーシア工科大学にはよく見られます。
きっと彼らももう少しいたら、お店が閉まっていて困ったけど、現地の友人に招かれてイフタールを一緒に体験して、ラマダンの本当の意味を理解できるのではないでしょうか?断食は大変そうに見えるけど、みんな喜びを持って取り組んでいることに驚くのではないでしょうか?(たしかに辛そうには見えないんですよね)
多様な休日と文化理解 – 「また休み?」と思わないために
マレーシアには「また休みなの?」と思うほど様々な祝日があります。1月には西洋の新年、2月には旧正月(チャイニーズニューイヤー)、そしてイスラム暦に基づくラマダンとハリラヤ、さらにはヒンドゥー教のディーパバリなど、多民族国家ならではの多彩な祝日があります。
これらの休日の多さに最初は戸惑うかもしれませんが、実はこれこそがマレーシアの多文化共生の象徴なのです。様々な民族の文化や宗教を尊重し、それぞれの祝日を国全体で祝うことで、互いの理解を深めているのです。今度はあなたが休日ね!!という具合に
日本では考えられないシフト制の「休み」に驚くのではなく、多様な文化が共存する社会の素晴らしさとして捉えてみてはいかがでしょうか。
異文化理解の重要性 – なぜ私たちも知るべきなのか
グローバル化が進んだ現代において、異なる文化や宗教への理解は不可欠です。特に日本人にとって、人口の多数を占めるイスラム教の行事や習慣を知ることは、国際社会で活躍するための大切な一歩と言えるでしょう。一時期、「24時間働けますか?」のCMもあったと思いますが、あれは狂ってると思われます。
ラマダンやハリラヤのような宗教的行事を理解することは、単に知識を増やすだけではありません。その背後にある価値観や思想に触れることで、私たち自身の視野を広げ、多様な考え方を受け入れる柔軟性を育むことができます。
マレーシアでのラマダン体験は、まさに「百聞は一見に如かず」。実際に現地で見て、感じることで、教科書では学べない生きた異文化理解ができるのです。海外生活は本当に「百聞は一見に如かず」の連続です。あ、そういうことね!と感じ、とりあえず経験して失敗して学んでみなよ!というパラダイム・シフトが起きるでしょう。
おわりに
ラマダンとハリラヤを通じて見えてくるのは、宗教的実践の奥深さだけでなく、人々の絆や思いやりの精神です。断食という自己鍛錬を経て迎える祝祭は、より大きな喜びと充実感をもたらします。
高校生・大学生の皆さん、ぜひ機会があればマレーシアのラマダン・ハリラヤを体験してみてください。文化の違いを尊重し、理解を深めることは、これからのグローバル社会を生きる上で大きな財産となるはずです。
そして、「また休みか」と思わず、「どんな意味のある休日なんだろう」と興味を持つ姿勢が、真の異文化理解への第一歩なのかもしれませんね。
「英語が話せる」ことと「世界を理解する」ことの間には、実はグランドキャニオンほどの深い溝があるのかもしれません。真の国際化とは、見慣れない文化の中に飛び込み、自分の常識や価値観が「当たり前」ではないことを体感することから始まるのではないでしょうか。
まだ早いですが、Selamat Hari Raya! (ハリラヤおめでとう!)